逸失利益とは交通事故などが原因で、被害者が得られなくなった利益のことです。事故がなければ、その後にもらえていた給料などが算入されます。「もしも事故に合わなかったら、将来幾らもらえていただろう?」を算出するのです。
目次
逸失利益の計算式
逸失利益は単に給料の額だけを計算するのではなく、想定される給与から生活費充当分を引いたり、労働能力喪失率を掛けたりすることで、適正値を導きます。更にその利益分から将来の収入を今一度に受け取ったことによる利息も引きます。もし将来の給与を前倒しで受け取りその金額を銀行に預けると利息が付きますが、その利息は本当なら貰えない収入なのでその分を引くのです。
逸失利益は後遺障害を負った場合と、死亡した場合で算定式が異なります。
後遺障害の逸失利益=収入額×労働能力喪失率×ライプニッツ係数
死亡時の逸失利益=(収入額-生活費)×ライプニッツ係数
将来の収入を予測する ライプニッツ係数
上の式にあるライプニッツ係数と言うのが、「今後もらえる給与を一括でもらった場合の額から利息を引いた額」を算出するための係数です。係数一覧はこちらで確認できます。
国土交通省:ライプニッツ係数表
生活費は扶養者数で決まる
また、生活費は扶養者の数により、収入に対する比率が決まっています。
被扶養者がいない場合 | 収入の50% |
被扶養者が1人 | 収入の40% |
被扶養者が2人 | 収入の35% |
被扶養者が3人以上 | 収入の30% |
最難関「労働能力喪失率」
労働能力喪失率は事故によって体に残った障害が原因で、どの程度仕事が困難になったかを%で示したものです。例えば、完全に寝たきりになったり、視力を失ったりした場合には労働が全くできないとして、労働能力逸失率100%となります。(詳しくは後遺障害等級表と労働能力喪失率表をご参照ください)
その他にも「片足の股関節、膝、足首のうち2カ所が動かなくなった場合には逸失率67%」「片手の小指が機能しなくなった場合には逸失率9%」など、様々な事象に対してパーセンテージが決められています。
この「労働能力喪失率」はライプニッツ係数等の数値と違って、本人の認識と外から見た認識が異なることがあるため、慰謝料等を算定する際に揉めることが多くあります。
例えば交通事故で良く起こる障害に「むち打ち症」がありますが、むち打ち症は本人には痛みが有るものの、レントゲンを撮っても傷みの程度までは分かりません。つまり症状の程度は本人の主観に頼らざるを得ないのです。一方で同じむち打ち症にも労働能力喪失率には2つの設定が存在します。
局部に神経症状が残った(主にむち打ち症) - 労働能力喪失率 5%
先に述べたように、残った神経症状が頑固かどうかを客観的に判断することはかなり困難です。このような問題点が労働能力喪失率には多く存在します。限界点と言っても良いかもしれません。
逸失利益を実際に計算してみます
そでれは実際に計算してみましょう。次のモデルケースの方が事故に遭ったとします。
被害者
35歳 男性 会社員
給与額 500万円/年
家族3名 妻+子供2人 全員扶養家族
被害者が死亡したケース
死亡時の逸失利益の計算式は『(収入額-生活費)×ライプニッツ係数』なので、この式に数字を当てはめていきます。
収入額
収入額は年間給与の500万円です。
生活費
生活費は扶養家族3名なので、収入の30%となります
生活費=500万円×30%=150万円
ライプニッツ係数
ライプニッツ係数表から35歳の数値は15.803であることが分かります。
これらの数字を当てはめてみます。
(収入額-生活費)×ライプニッツ係数=(500万-150万)×15.803=5,531万500円
被害者に後遺障害が残ったケース
次に後遺障害としてむち打ち症が残ったケースを考えてみます。後遺障害が残った時の逸失利益の計算式は『後遺障害の逸失利益=収入額×労働能力喪失率×ライプニッツ係数』です。この式に数字を当てはめていきます。
収入額
収入額は年間給与の500万円です。
労働能力喪失率
先に述べたように、むち打ち症には2つの喪失率が有ります。むち打ち症の程度により14%か5%の何れかが適用されます。
労働能力喪失率=14%或いは5%
ライプニッツ係数
ライプニッツ係数表から35歳の数値は15.803です。
これらの数字を当てはめてみます。
労働能力喪失率14%の場合
収入額×労働能力喪失率×ライプニッツ係数=500万円×14%×15.803=1,106万2,100円
労働能力喪失率5%の場合
収入額×労働能力喪失率×ライプニッツ係数=500万円×5%×15.803=395万750円
実に710万円もの差が出ました。死亡時の逸失利益計算と異なり、後遺障害の計算は残った障害の解釈の違いで、計算結果が大きく変わることが頻繁にあります。